宅地盛土耐震化工事の技術的な話

 新しい家屋はどんどん強くなってきています。しかし、地盤は・・・・

1.工事作業手順
2.調査・設計手順
3.宅地盛土耐震化工事の背景
4.丸腰にしないのが耐震化対策
5.震度6以上で耐震機能を発揮した例
6.その他
7.お問い合わせ
8.リンク


団塊の世代必見!宅地盛土の耐震化で大地震から財産と生命=家族の生活を守る
過剰間隙水圧消散および地盤補強工法施工例

設計計算例(確定論的手法)
設計計算例(確率論的手法)
「ガイドラインの解説」の方法での試算例
地震時に造成地盤に起きること(写真集)
中越地震で起きたこと(写真集)

工事ビデオ
宅地盛土の耐震補強工事例(東京都内)
ブロック積み擁壁と宅地盛土の耐震補強工事
受圧構造
竣  工 (2007.5.1)
工事作業手順
ブロック積み擁壁への孔あけ 孔の中
恒久排水補強パイプ打設(専用架台使用の場合)
L=3.6〜5.4m挿入(L=1.8mパイプを継いで挿入)
架台なしでの打設もOK 孔口充填(位置合わせを同時に行う)
受圧板設置 梁の設置
ブレーカー(油圧タイプ)30kg相当
コンプレッサー型の通常のものもOK
油圧ユニット
調査・設計手順
現地調査 宅地造成の形状を旧地形から推定
安定計算(Kh=0.25時にFs>1) 設計・対策工配置計画
部材製作・組み立て実験 安定計算・構造計算・報告書
宅地盛土耐震化工事の背景
 1995年1月17日兵庫県南部地震
宅地盛土の擁壁・造成盛土が数多く崩壊しました。宅地盛土の崩壊は、そのお宅にお住まいの人命を失う危険ばかりではなく、通行人への危険や、財産の消失による人生設計の狂いを招きます。家屋の耐震化は近年相当進みました。建て替えが行われることによりいずれ問題は無くなるでしょう。しかし家屋の耐震化が十分でも宅地が破壊すれば元も子もありません。最近頻発する地震被害に対して宅地盛土の耐震補強の必要性が高まっています。
そのほか、2001年芸予地震での広島県呉市の斜面に密集する宅地の擁壁が多数崩壊し、2004年新潟県中越地震での長岡市周辺の宅地盛土・擁壁の崩壊、2005年福岡県西方沖地震での玄界島の斜面住宅での宅地盛土崩壊など、震度6以上になると一気に被害が増えるのが盛土構造物の特徴です。兵庫県南部地震の際にも、傾斜地で盛土擁壁が崩壊し、その積みブロックが斜面下側の住宅に飛び込んで被害を発生させた例もあります。また、擁壁の上に積み上げられている建築ブロックの倒壊は、道路を歩いている人に当たると人命に関わります。
 
兵庫県南部地震の前までは、自治体で立案される地震対策の想定震度は「5」が大半でした。このため宅地盛土等の盛土構造物が地震対策されぬまま、宅地・道路などに存在しています。公共物(道路など)は公共事業として早急に手当てされるものと思いますが、個人資産である宅地に関しては原則として個人が対策しなければなりません。このため安価で効果的な対策工事の必要があります。(宅地盛土に関して、盛土全体が滑動崩落する可能性のある谷埋め盛土等に関しては、2006年施行の改正宅造法で工事費の1/2が補助されることになりましたが、現時点(2007.3)で区域指定・対策工事はゼロとのことです)
2007年能登半島地震
能登有料道路では11箇所の盛土崩落が起き、そのほかにも盛土部のみ多数の変状が発生しました。しかし、被害が発生した周辺の家屋は瓦も落ちていないような状況です。公共工事で施工管理されて作られた盛土がこうも簡単に崩壊してしまうという事実は、確実に来襲が予測されている海溝型の巨大地震・超広域災害を考えると、背筋が寒くなるような怖い話です。
 
能登道路の復旧対策は、ジオテキスタイルで盛土をやり直すということに決まったそうですが、現在の盛土設計基準ではそういった対策をする必要はありません。なぜ盛土内にテンション材を入れることにしたのか、いまの設計基準で地震時の設計手法を改訂するのかどうか、既存の盛土構造物に対しての予防対策を進めていくのかどうか、ということを一般市民に対してアナウンスすべきでしょう。
丸腰にしないのが耐震化対策
固定してない家具が地震時に倒れるように、何の支えもないものは簡単に倒れます。これは土構造物である盛土も同じです。何の対策も成されていないものを当社では「丸腰」と呼んでいます。

丸腰の家具、丸腰の盛土、丸腰の法面、等々です。家具の転倒防止に大きな対策はいりません。突っ張り棒や、引き留め金具程度で相当倒れにくくなります。

盛土も同じです。盛土が崩壊したくても、それを邪魔して崩壊しにくいようにする工夫があればよいのです。木の根が張っていると崩れにくいのは、表層土砂の移動の自由度を奪っているからです。関西大学の西形・西田先生らの表現では「ダイレタンシー抑制効果」「変形拘束効果」に当たります。土は破壊する前に変形しなければならないのですが、変形が拘束により抑えられると破壊も起きなくなるという理屈で、補強土工の第一義的な効果であると言われています。
現在の盛土の設計基準は「標準盛土勾配」が主体であり、基本的には「丸腰」です。大阪狭山池の堤の発掘で、盛土の中に木の枝等が挟み込まれて一種のジオテキスタイル工法となっていたことから、古代人は「丸腰」が地震に弱いことを知っていたのだと思いますが、現代土木工学はそこを見落としていたのかもしれません。

今回の宅地耐震化工事は、『地盤と構造物』に「既設の盛土に対しては水抜パイプの打設が最も実際的で有効」と書かれているものを採用しています。この実験は昭和40年代に行われたものですが、耐震化対策が長期間におよぶため、鋼管の錆などの問題で実際には耐震化対策として使われたことがありませんでした。

恒久排水補強パイプは、高耐食性メッキとそのメッキの機能を損なわないプレスネジの組み合わせで長期の使用に耐えるように改良されたものです。あわせて、受圧板も開発し「補強とフェイシング」(下図のc)を実現し、変形拘束効果も発揮できるように改善されています。
 
【参考となる文献】
1)西形達明、西田和彦、倉持克治(2004);鉄筋類挿入工法の補強機構と設計法に関する考察、材料、vol.53、No.1,pp.1-4

2)池田俊雄(1999);『地盤と構造物−地質・土質と鉄道土木 失敗と成功の軌跡』、鹿島出版会、p.151-§16”震害問題について”・・・既設盛土は「水抜パイプ」、新設盛土は「タイロッド」が最適工法


3)佐藤裕司(2000);地質と施工方法の組み合わせにより地すべりが発生した事例
法面表層処理のやり方によっては、表層部が不透水層となりスベリを誘発することを明らかにした(技術士経験問題の解答)。
※緑化工が念入りに施されるようになり、この問題は近年頻発するようになってきている。下記写真は高速道路建設中の盛土法面で発生した崩壊の対策として恒久排水補強パイプを使用した例。緑化工を行う場合、表層部は擁壁と同じように排水孔をもうける必要がある。

パイピングホール(を人工的に形成する)工法:”パイプ流は自然がつくる地下水排除工”という考え方に基づき、人工的にパイプ流を作る工法。地盤内の地下水流は、この排水パイプに向かって新たなパイプ流を形成するため、特別「みずみち」を狙って打つ必要はない(第二名神高速道路建設現場での使用例)。
震度6以上で耐震機能を発揮した例

宮城県しらさぎ団地での施工例
宮城県河南町で、排水不良による擁壁の滑動現象をおさえるため、2003.5に排水補強パイプを施工しました。その2ヶ月後に宮城県北部地震があり、施工箇所で震度6弱の強震動がありましたが、擁壁は健全さを維持していました。
ただし、受圧板のない構造だったため、擁壁の揺れによって間詰めモルタルが飛び出した形になりました。それだけこの箇所がよく揺れたという証拠でもあります。

強震動で中詰めモルタルが飛び出している

一部はモルタルが飛び出し割れている
その他
工事の位置づけ:今回の工事は、改正宅造法における宅地耐震化推進事業としておこなわれたものではありません(公的な補助はありません)。一般の宅地所有者の方が、地震時に盛土や擁壁が壊れ、財産を失ったり、他人に被害を与えたりするということを予防するために自発的に行われたものです。ご本人のご厚意により、工事情報を公開することを許可していただいています。
 
工事施工業者今回ご紹介した工事は、「恒久排水補強パイプ」を使用していただく限り、何処の工事会社さんでも、個人であっても行うことができます。施工方法は簡単なので、一般の工務店の方でも十分できます。当社(太田ジオ)は技術的なアドバイザーであり、メーカー(千代田器材)は材料製作・販売を担当しています。
なお、本工法および本工法に用いる恒久排水補強パイプは、特許等の知的財産権で保護されていますので、同一製品、類似品を許可無く製造することはできません。
 
谷埋め盛土・沢埋め盛土の場合
 
谷埋め盛土の滑動崩落防止に利用する場合の概念図です。谷に溜まる地下水を排除し、過剰間隙水圧が作用する際に、その圧力を消散させます。これは道路の沢埋め盛土も同じ原理で使えます。徐々に対策していく場合には、応力が集中し、地下水も沢山ある法尻から優先的に打設していきます。1箇所を一気に仕上げるのではなく、多数の盛土法面を順番に徐々に仕上げていく方が防災上は効果的です。
お問い合わせ
技術的なお問い合わせに関しては、有限会社太田ジオリサーチでお受けすることができます。ただし、内容によっては有償となる場合もありますが、その際には事前に同意確認させていただきます。
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リンク
■地震時の盛土安定性についての再考
〜2007年能登半島地震でわかったこと〜
■国土交通省 都市・地域整備局
   「宅地耐震化」のページ
■谷埋め盛土の地震時危険度自己診断 ■政府広報オンライン
   「宅地耐震化」
■谷埋め盛土の地震時滑動崩落の安定計算手法 ハウスPDR工法のFLASHムービー(縦打ちパイプ工法)
■豪雨と地震に対して効果を発揮した斜面安定化対策の2つの事例 団塊の世代必見!
宅地盛土の耐震化で大地震から財産と生命=家族の生活を守る
■兵庫県南部地震で実証された造成地盤の危険性
■サビレス管の強度試験結果
太田ジオのホームページへ  2007.4.28掲載
※当工法は資材・工法ともに知的財産権で保護されています。ただし、施工に関しては制約をかけておりませんので、どの工務店さんでも「恒久排水補強パイプ」を用いて施工することができます。