土地購入前の開発履歴調査の方法
埋もれている土地の本性を知るための調査
太田ジオリサーチ
1.ソフトウエアのダウンロード 埼玉大学谷謙二先生が開発された『今昔マップ2』をダウンロードします。感謝して使わせていただきましょう。(フリーソフトです)
http://ktgis.net/kjmap/ (他の方法でも可能ですが、このソフトが一番早くわかります。)
2.対象の土地を「今の地形図」から探す 該当する地形図は、オンラインにすることによって、次々とダウンロードされます。「今の空中写真」でもよいですが、これは「データ取得」ボタンを押してダウンロードすることになりますので、少し時間がかかります。
3.開発前の地形図を表示させる 時間をさかのぼって地形図を表示させ、開発されていない時期の地形図を画像として取得します。
4.開発後の地形図を別レイヤーに表示させる 図を移動させずに今の時代の地形図を表示させ、画像として取得します。図の中での位置が動いていないことが重要です。同様に空中写真も画像として取得します。そして、開発前の古い時代の地形図をベースにして、新しい時代のレイヤを透過させて表示させます(普通のペイントソフトでできます。下記はPaint Shop Pro)。あらかじめ古い地形図内に沢筋を目立つ色で描いておくとよいかもしれません。

重ね合わせ図(色合いを変えておくとわかりやすいです)
5.宅地地盤の評価 切土地盤であれば普通は地盤として問題ありません。切土地盤は開発前の尾根部に相当します。開発前の谷部が現在平坦になっていれば、それは谷埋め盛土です。盛土は、自然地盤とは比べ物にならないほど脆弱な人工地盤なので、一般的に問題があります。
6.選択 一般に盛土造成地の端は、障害物が無いので見晴らしがよく、立地的に人気の土地です。どこに住むかというのは、単に地盤の安定性だけの問題ではありません。生活の質の観点からは、見晴らしの良い土地の方がよいかもしれません。その時には、盛土地盤の持つリスクを回避することを考えればよいと思います。
 
(1)地山までの地盤調査結果を見る
 盛土自体の締まりが緩い場合には、建築後の沈下問題が発生すると思います。杭基礎がされていれば家屋は沈下しませんが、外構が沈下します。
 地山と盛土との境界部に、旧表土が残っているような造成であれば、パスしたほうがよいと思います。造成自体の信頼性がありません。
 地山と盛土との境界部に旧表土は無いけれど、N値0〜1程度の非常に緩い場所が存在する場合(古い盛土ではよくあります)、地震時滑動崩落の準備が整った盛土と考えてよいと思います。また、多くの盛土がいずれそうなります。
 
(2)建築設計会社・不動産会社等の話を聞く
 建築基準法や宅造法の申請をして「許可を得ているので大丈夫」一点張りの土地であればパスしたほうがよいと思います。阪神・淡路大震災以降に滑動崩落を発生した盛土も同様に許可を得た場所だからです。この場合、それらの会社は、それ以上の情報を知っていて話さないか、不勉強で知らないかということになりますが、どちらであっても被災後に泣き寝入りとなる公算大です。
 逆に、許可を得てはいるが、最新の知見に基づいてさらなる安全性を高め、顧客に情報を開示しているところは相対的に信頼できると思います。
 ※住宅市場はコスト競争が激しく、法令の許すぎりぎりのところで低コストを追求しています。宅造法改正(2006)で宅地耐震化事業が創設されていますが、現実には被災前の造成宅地防災区域指定は皆無(2013.3現在)、盛土分布マップの公開すらごく少数の自治体しか行っていません。このため、盛土の耐震性に関しては、市場において、「法律は存在するけれども全く機能していない状態」にあります。宅地耐震化に対して、販売側の「法令遵守しています」が何の担保にもならない理由がそこにあります。
 
(3)対策に関すること
 滑る条件を持っていると考えられる盛土地でも、マンションなどの重量構造物が杭基礎で建てられているところでは滑動崩落現象は発生しませんでした(阪神・淡路大震災の事例)。また、地下水排除工が施工され、その効果が及ぶ範囲内では滑動崩落が発生していませんでした(東日本大震災の白石市の事例)。
 土が拘束され変形しにくくなっているような場合や、地下水排除工が施工され地下水位低下あるいは地震時の過剰間隙水圧消散ができる環境下では滑動崩落は発生しにくいことがわかってきています。
 また、谷埋め盛土の幅と深さの比率が幅/深さ≧10となる形状の盛土が選択的に滑動崩落したということもわかってきています。これらの知見から大きな被害を回避する対策を考えることになります。
 危険度判定をする場合には、太田-榎田モデル(側方抵抗モデル)で試算してみてください。
 
(4)具体的な対策工
 東日本大震災で発生した滑動崩落に対しては、国が緊急対策事業を創設し公共事業として盛土の全体地すべりの対策をすることになりました。主工法は、抑止杭工・アンカー工・網状鉄筋挿入工などの抑止工が多く、根本原因である過剰間隙水圧対策としては安定処理工(地盤改良)くらいとなっています。いかにも「土木的解決策=力には力で対抗する」という印象です。
 一般の個人の方々は、このような高価な対策工は決してできませんし、次の震災時に今回のような手厚い緊急対策事業がなされるかどうかもわかりません。
仮に再び緊急対策事業ができたとしても、あくまでも盛土全体の滑動に対する対策であって、個人宅の修繕費が出るわけではありません。
 個人がやる場合には、「力には知恵で対抗する」ことが必須です。地下水が無ければ過剰間隙水圧派発生しないのですが、個人では横ボーリング工を主とした地下水排除工すら難しいと思います。費用的な面と用地的な面からです。前者は工事費、後者は他者所有の土地の地下を使わないといけないという点です。
 
 実現可能な具体的対策工としては、
1)過剰間隙水圧の発生を抑制する「過剰間隙水圧消散工」を自分の敷地内で行う
2)幅/深さ比を、人工構造物によって小さくし、側方抵抗を強める対策を自分の敷地内で行う
3)盛土地内住民の合意を取り付けることが困難である場合を予想し、自分の敷地だけでも被害が少なくて済む方法を考える
 
ということになると思います。
 
 これまでの作成したページを下記にリストアップします。
 ・谷埋め盛土宅地の地震時危険度自己診断
 ・ご自身スクリーニング:ご自宅の立地条件検索方法
 ・滑動崩落防止対策工
 ・宅地盛土耐震化工事の技術的な話
 ・過剰間隙水圧消散および地盤補強工法
 ・ハウスPDR工法のflashムービー
 ・SFK工法(1軒でもできる滑動崩落防止工法)
 
7.Tips <盛土はわざわざ滑りにくいところを道連れにしない>
 「滑動崩落は盛土全体の滑り」と表現されますが、厳密には違います。盛土の中の滑り易いユニットの滑りに過ぎません。このあたりが、土塊の剛性が高い(土塊が硬い)自然地すべりの多くとの違いです。
 盛土地すべり土塊の形状決定要因は、盛土の剛性が小さく、相対的にせん断抵抗力が小さいため、
(1)過剰間隙水圧が発生する飽和地下水が存在する上側にある土塊であること
(2)ボトルネックは通過できないので、通過する土塊はボトルネックの幅になり、通過しない土塊はそこで圧縮変形する
ことになります。このため、「弁当箱形状」になりやすい性質があります。もともと側方抵抗モデルは「弁当箱形状で”近似する”」ということだったのですが、様々な事例や現象観察の結果、弁当箱形状で変動する、、、あるいは変動する場合には弁当箱形状の移動土塊形状となる、ということがわかってきました。
 その性質を利用して、対策した箇所だけが動かないようにする(ボトルネック幅をさらに小さくする)というSKF工法の理屈が出来上がっています。

滑動崩落する土塊は「弁当箱型」になる
盛土地すべり土塊の弁当箱形状は、便宜上の単純化ではなく、「最も滑動するのに抵抗力が少なくて済む」単純な形状になるため、自らが抵抗の多い凸凹した場所を切り捨てて変身するという理にかなったことだった
 
太田ジオリサーチ 2013/4/30記